miyabi-night41

雅紀、おい大丈夫か

抱き起こす。

おでこにびっしりと汗を浮かべた雅紀に触れる。

熱い。ホントのホントに熱い。熱どんだけだよ。

悠長に構えてる場合じゃない。俺が試してみてそれからとか言ってるヒマなんかない。今すぐだ。今すぐ。

松本雅紀の熱下げろ

俺の後から入ってきて靴を脱いでた松本に、自分でもびっくりするぐらいデカイ声で命令した。

命令だよ。雅紀の、とにかく熱を。

松本が小走りでこっちに来る。

これでもう大丈夫。

松本に頼んで俺はその間外にでも居て、雅紀の熱が下がったらまた元通りだ。全部。

そう、思った、のに。

いや

雅紀

やだ。僕はいやっ

雅紀が。

いやって俺から逃げようとして、どたって畳の上に落ちた。

雅紀

そして更に逃げようと、起き上がろうと、する。

ぽたり。

落ちた汗が畳に落ちて、畳の色を変えた。

雅紀、じゃあ病院に

薬は、効かない

とにかく熱をって思うのに、最後まで言うこともさせてくれない。

よろよろと起き上がろうとする雅紀に、支えようと手を伸ばす。

雅紀は長い前髪の間から俺を見て、しょーちゃんって笑った。

泣きそうに、顔を歪めながら。

逃げて

雅紀?

逃げて?

いきなり。何?

何言ってんだよ。

何から逃げるって言うんだ。しかもこんな熱でぶっ倒れてる雅紀を置いて?

もし何かから逃げないといけないって言うならそれは雅紀も一緒にだ。

前髪からは雅紀の右目しか見えない。メガネがそういえばない。落としたのか。ベッドの上か。

片手で雅紀を支えながら、片手でその前髪を、汗ではりつく前髪を、退けた。雅紀の超絶美人のその顔が、ちゃんと見たくて。

櫻井、逃げろ

何?

掻き上げた髪から覗いた左目。

泣きそうに笑う雅紀。

の、左目が。

雅紀、お前

逃げて、しょーちゃん。もう、ダメだと思う

どもらない言葉に、何とも言えない不安と緊張が走った。

すべてを諦めたみたいな、さっきの青空みたいな。

なんでそんな顔?

雅紀なんで。

何で何で星人が、俺の中で暴れ出す。

出るって?何が?

松本も逃げろって、何から?関係あるのか?雅紀のこの左目と。

動けなかった。

雅紀の左目から、目をそらせなかった。

潤。ごめん

お前のせいで俺の人生メチャクチャだ

ごめん

行けって、ぐったりする雅紀を俺から取り上げて、松本が俺を押す。

逃げろ。せめてここから出ろ。しょーちゃん、逃げて。

ふたりがそろって言う。

雅紀は何なの?

聞いた俺に、雅紀はますます顔を歪ませた。

もう今にも泣きそう。

違う、雅紀。泣かせたいんじゃない。別に目がどうってそんなのどうでもいい。お前が何だって別にいいよ。

知りたいだけ。ただ、お前が好きだから、お前のことが知りたいだけ。そして、笑って、欲しいだけ。

何でお前は雨を降らせることができるの。

薬でも下がらないって言うその熱は何なの。

何で松本とエロいことしたら下がるの。

何で、雅紀。

その左目。

例えるなら、爬虫類?

全体が薄い緑色。黒目の部分が金色で縦長に線のようになってる。そしてまぶたが上下から瞬いて。

ホントに爬虫類、ヘビとかトカゲみたい、だ。

しょーちゃん

雅紀がその左目を、顔の左側を手で覆う。

悲しみなのか痛みなのか何なのか。歪む顔が、雅紀が美人なだけに痛しさ倍増で。

ごめんね。大好きだよ

雅紀

大好きだよって。

雅紀。

寝起き雅紀じゃない雅紀が、俺に。

なのに松本に抱かれてるのが嫌で、俺の雅紀だって雅紀に手を伸ばした。

したら。

雅紀の歪む顔が、もっと、もっと歪んだ。

逃げてって叫ぶ声。

そして。そして。

次の瞬間。

うっっっわ

風圧。

衝撃。

俺は、すごい勢いで。

雅紀から出た何かに吹っ飛ばされた。

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